オリジナル鼻緒 その1「夏の雲走る」
鼻緒ができるまでの長いはなし。
その1「夏の雲走る」
2007年7月14日、現代日本を代表する作曲家、林光さんの「木琴協奏曲〜夏の雲走る」を初演した。(下野竜也指揮/京都市交響楽団)
初演というのは、読んで字のごとく、ある曲をこの世で「初」めて「演」奏する、ということ。初演の場合、コンサートの日程は決まっているが、曲はまだ完成していないことがほとんど。なので、初演を引き受ける、あるいは、作曲家に作品を委嘱して自らが初演する、というのは、それなりの覚悟がいる。
どんな覚悟かと言えば、コンサートぎりぎりになっても曲が完成せず、でも「当日」は容赦なくやってくる、そのことについての覚悟、だ。
この時も、そうであった。
曲が、こない。
こなければ、練習しようもない。
しかし、「上手い催促」というのもむずかしい。
そんなわけで、催促はせず、ひたすら待つことにした。
そわそわに、いらいらが混じりだした、本番3週間前。
やっと、譜面が届いた。
しかし、最初の数ページ...
「これじゃ、まだ3分!」
と叫びそうになったが、タイトルを見た私はすっかりご機嫌になった。
「木琴協奏曲〜夏の雲走る」
なんと、素敵なタイトルではないか。
「夏の雲走る」
突然、イメージがわいてきた。
衣装!
タイトルを見て、そして楽譜をざっと見渡して、この衣装しかない!と決めた。
頭の中で。
ふとひらめいたのは、ある着物。
「金春色(鮮やかなブルー)と自転車」をテーマに谷本天志さんにデザインしていただいた着物のこと。
これは、2007年3月に放送されたNHK「知るを楽しむ〜歴史に好奇心 京都きもの玉手箱」に出演させていただいたとき、その番組内で生まれたもの。
この生地を使って、衣装を作ることにした。
そうなれば、それと同じ反物を作らねばならない。早速、生地を手配し、型染めし、そこから洋服をデザインし、仮縫い、縫製して仕上げるという工程が日程的に間に合うか、各所に連絡を取る。
まずは、生地が超特急で染め上げられるかどうか。
「こんな日程、天皇陛下に頼まれても間に合いません」と言いつつも、いつも驚異のスピードで間に合わせてくださる、着物問屋のJ企画藤野さん。早速、川勝染匠の佐野さんに連絡を取り、染めの段取りをつけてくださる。
次は、洋服デザイナー、私の衣装をコンビで作ってくださる小西登志子さんと田中英美さん。日程を聞いてしばしの沈黙のあと、「わかりました。なんとかなると思います」
かくして、滑り込みで、衣装はできあがった。
衣装を製作している間に、曲も素晴らしくできあがったことは、言うまでもありません。
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