「商品」と「作品」
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同じ音楽業界にいるので、佐村河内氏の問題でいろいろなことが聞こえてきて、なんとなくざわざわしている感じがあります。名前が売れる、物語性がある、というのはすごいことだな、とあらためて思います。
私は、2005年、平岡養一の木琴を譲り受けて演奏活動を始めるにあたり、実はちょっと心配していました。世界一の木琴奏者と称された「平岡養一」の名前で、自分を売り込もうとしている、と勘違いされるといやだな、と。だって40年近く前、10歳の私は70歳の平岡養一と握手まで交わしたのですから、充分物語性があるでしょう(笑)だから、純粋に、自分の演奏だけを聴いて評価していただけるように、平岡養一を紹介しつつも、それを全面に出さないでおこうと、随分気を遣ったものです。
結果的には、それってただの自意識過剰(笑)世間ではすでに平岡養一の名前が忘れられつつあることがわかり、自分の売名行為どころか「平岡養一」を思い出してもらうために、せっせと評伝まで書くことになったのですから。今から考えれば、随分滑稽な話です(笑)
で、一連の報道の中の「佐村河内氏の作曲指示書」を見て、思ったこと。
私も、積極的に、浴衣ブランド「メテユンデ」のプロデュースを手掛けていた頃は、谷本さんに「指示書」を渡していました。普段のコンサートチラシのデザインなんかもそうです。「指示書」という名前ではないですが(笑)
これは、メテユンデの帯、一番人気でロングセラーとなった「バレリーナ」(デザイン:谷本天志)。
「バウハウスのオスカーシュレンマー風のバレリーナの帯をお願いします」といってできてきたものでした。
10年以上前なので、正確な事は忘れましたが、おそらく、ストラヴィンスキーのスコア(楽譜)の表紙の絵も、私のイメージを伝える参考資料として渡したと思います。
帯にある、二重丸の水玉は、バレリーナを真上からみたところ。織りの帯は、デザインのパターンがむずかしいのですが、見事に規則に則り、私の要望を取り入れ、配色他、コストも考えた上で、オリジナリティあふれるものとして完成されています。
自分の「指示書」を元に、見事に具現化された商品を目にするのは、なんともいえない快感です。
そこで、です。この谷本さんデザインの帯は、私の「指示書」を元に作られた「谷本さんデザインの商品」です。「谷本さんの作品」とは、微妙に違う。(便宜上「作品」とよぶことはあるかもしれませんが)。作品と商品でどちらが上とか下という問題ではなく、感覚的に違うものなんです。とはいえ、きっちり線引きできるわけではなく、「作品」寄りの「商品」。「商品」寄りの「作品」、「作品」がいつの間にか「商品」に…..というのも存在すると思います。
アーティストにとって、商品は頼まれてその目的に叶うよう作る物、作品は頼まれなくても作る物、という言い方ができるのではないでしょうか。もちろん、これも簡単には線引きできません。言い方を変えれば、誰かに制作を依頼する時、「商品」ではなく「作品」的(作家の個性を最大限に活かしたもの)なものが欲しいと思えば、細かいリクエストはしないでしょう。そのあたりのさじ加減が、依頼者側のセンス、あるいは志、といえるのかもしれません。
谷本さんは、頼まれなければ、こんな感じの油絵「作品」を描く方です。これは、とってもわかりやすい方かな。一見、真っ白、とかもあります(笑)
そういった意味で、今佐村河内氏のゴーストライターと言われる、作曲家・新垣隆さんの「商品」(詳細まで依頼されて作曲されたもの)ではなく、「作品」(普段純粋に書いておられる現代曲)を、いろいろと聴いてみたいなあと思います。これまで、あまりの佐村河内氏のいかがわしい様子に「商品」の方も聴いてはいませんでしたが…. あえて下世話な言い方をすれば、今回の騒動で最も興味があるのはその一点、です。
たくさんの信頼できる音楽仲間が、親友として新垣さんを擁護する発言をされているし、風貌を一見しただけでも、信じられる方なのだろうと感じます。是非、その新垣さんの本来のお仕事に接してみたいです。(三絃の高田和子さんらが新垣作品を演奏されているCDがうちにあるはずなのですが、見当たらない〜)
あっ、ちょうどいつもお世話になっている作曲家の当摩泰久さんから、署名のお願いが届きました。「以前 拙作を弾いてくださったのですがすごい才能の持ち主です。よろしければ賛同を」とのことです。