追悼・杉本秀太郎先生
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<むかし、志賀直哉が奈良に住んでいたとき、東京からの客と法隆寺へタクシーに乗っていった。飛鳥川にかかる木橋をとおると、橋板がカタコトカタタッタ….と快い音を立てた。「ほら、木琴!」と志賀さんが言って、皆笑っていると、運ちゃんが、「来年はテッキンになりまっせ」〜>
5月27日にご逝去された杉本秀太郎氏からいただいたお手紙の一部。木琴を聴くと、このたわいもない話を思い出すと書かれていました。
吉田秀和賞の審査委員長として『木琴デイズ』を吉田秀和賞に選んでくださった秀太郎先生に、受賞記念リサイタルのご案内を持ってお宅へうかがったのがお目にかかる最期となりました。
『太田垣連月』(小澤書店)の初版本を入手したので、今度サインをくださいとお約束したのですが、かなわぬままとなり寂しいことです。
国の重要文化財である杉本家住宅で行われたお通夜とご葬儀。
正面に天皇陛下からの供物がそなえられた先生らしいつづまやかな祭壇。薄暗い照明の中で聴く読経。お線香の匂いに包まれると、ふと知らない時空に足を踏み入れたような気持ちになりました。
お通夜の後は、東京から駆けつけてこられた、ピアニスト/文筆家の青柳いづみこさんとご一緒して、先生の思い出話など語り合いよき時間を過ごすことができました。「今度一緒にやりましょう。いつにします?」なんていう話に至ったのは、杉本先生の悪戯心からでしょうか。
最期は、薬もなく、管にもつながれず、安らかに旅立たれたとのこと。ご自宅での療養を支えられたご家族もご立派だったことと思います。
フランス文学者であり「京の文人」と称された杉本秀太郎先生に、謹んで哀悼の意を表します。
合掌