2007年の5月、いつもお世話になっている谷本天志さんのお母さんから素敵なプレゼントが届いた。
なんとまぁ、マリンバの模様がほどこされた、塗りの下駄。
「漆芸の教室に通っていて、そこで下駄を作っていますので、完成したらお送りします。」とうかがっていたのだが、こんなに立派なものだったとは。谷本さんのお母さん、恐るべし。
こういう時に困るのが、お礼、だ。
箱を開けたときの感激を伝える「お礼」。どんな風に感激したかを「お礼で表現したい」と思うのである。
でも、感激が大きかったからといって、むやみやたらに大きいお礼をしたのでは、かえって気を遣わせてしまう。ちょうどいいところ、というのは、むずかしいものだ。
一ヶ月以上、どうしようか、と考えていたのだが、ある日妙案を思いついた。
前述の、衣装を着てみた時のこと。
黒に着物地をあわせるタイプの衣装はこれまでに、5点製作している。
黒い布地は、いつも同じで、スポーツウェアに用いるストレッチの効いた素材。まず、これで、身体に合うサイズのベースを作っておく。それを着て、鏡の前に立ち、ああでもない、こうでもない、と着物地をあてていく。まきつけたり、断片をくっつけたりしながら、黒地のベースの、どの部分に着物地を配置するかを決めるのだ。
そんな風に作っていって、衣装はようやく仕上がった。
しかし、いざ、試着してみると、どうも何か物足りない。どこかにもう一個所、アクセントがほしいのだ。しかし、さんざん足し算、引き算を繰り返した結果がこれ。さらに、着物地の面積が増えれば、とたんに「過剰」になる。インパクトのある色柄だけに、かえってむずかしい。
さて、どうしたものかと鏡の前で思案しながら、なにげなく、布を細く折りたたんで、胸元に沿わせてみた。
これが、効く!
「面」でみていた生地だが、極端に細く「線」のようにしても、充分にインパクトがある。いや、線になったほうが、面白みが出る、というくらいだ。
ネックレスのようなラインで胸元に布を縫いつけてもらった洋服は、とても素敵に仕上がった。
実は、この時に、ひらめいたのだ。
線状にしても素敵な布。ならば、この布で、鼻緒を仕立てればいい。
オリジナル下駄のお礼は、オリジナルの鼻緒。
夏の雲を見るように、晴れ晴れとした気分になった。