いつも和装で過ごしているわけではないので、特にそういう目で見ようと心がけているわけではないが、それでも、時々「これは、鼻緒にいける!」と、思う布に出会うことがある。
私は、そんな布を見つけると、それを持って、いつもお世話になっている京履物「伊と忠」さんのお店に行く。すぐに下駄にすげて使うわけでもないが、鼻緒に仕立てて、持っておく。少し贅沢な気分になれる。
誂えを依頼する際には、メインになる生地を中心にして、いくつか決めていくことがある。
まず、肌触りのよいビロードで「本天(ほんてん)」といわれる生地の色見本帳をみせていただき、肌に触れる「下うけ」と言われるところの色を選ぶ。そして、親指と人差し指を入れるところ、鼻緒の先の部分にあたる「先つぼ」の色も決める。メインの布の個性を生かすためには、下うけと先つぼの色のバランスが、重要となってくる。また、色のバランスだけでなく、下うけをどの程度主張させるかも、ポイントとなる。内側からと外側からと覗かせて、額縁のようにするか、あるいは、内側だけ、ラインをいれるようにのぞかせるか、又、ほとんどみえないようにしてしまうか。覗かせる分量で、随分印象が変わる。
そして、重要なのは鼻緒の幅。細くするか、太くするかを決めて、ミリ単位で指定する。さらには、中に入れる綿の量も、ぽったりと厚みを出したほうが似合うデザイン、薄めできりっと仕上げたほうが似合うデザイン。履きやすさと見栄えを考えながら、加減する。
さて、今回の場合も気に入った布をもって、伊と忠さんに出かけた。
今回の布のデザインは、細かい柄の繰り返しではなく、大胆さが魅力の大柄なので、細く切り取った場合、よく考えないと同じ色の個所ばかりが出てしまい、平面的なものになる。細くに切り取ったとしても、カラフルな楽しさと、幾何学的な面白さが出るように、どの部分を使うか頭をひねる。また、右足、左足、それぞれの外側、内側、4本の色の出方のバランスをとるのもむずかしい。しかし、ああでもない、こうでもない、と時間のかかるところが、お誂えの一番楽しい部分でもある。
今回、下うけと先つぼは、あえて同色の黒を使い引き締めることにした。下うけは、内側からすっと黒がのぞくように、全体の幅は少し細めで、綿もふくらみをつけすぎず、シャープで軽やかなイメージで仕上げていただくようお願いした。
それから2週間ほど経って、「出来ました」との電話。
素敵な下駄をいただいてから、2ヶ月以上が経ってしまったけれど、自分なりに満足のいくお礼が出来て、めでたし、めでたし。